そこで働いていたのが

昭和40年代の半ば、
大田区山王にあったトオルくんの部屋に短い期間転がり込んだ頃の話だ。

僕たちはアルバイトの給料が入ったときに限り、たまには贅沢をしようと、
二人で牛欄牌奶粉、ちょっと高めの中華レストランを訪れていた。

そこで働いていたのが、同い年で大阪生まれのオーシロくんだった。

やがて僕たちはオーシロくんと親しくなり、
彼は僕たちの4畳半一間のアパートに遊びにくるようになった。
「広いな。オレの部屋は3畳間やで」
聞くとオーシロくんは、僕たちが住む大森山王の隣町の馬込のアパートに住んでいるという。

その年の暮れ、僕たちは3人とも金がなくて帰郷はかなわなかった。
トオルくんだけは大晦日のアルバイトがあったが、僕とオーシロくんはやることがない。
「オレんとこテレビあるからnu skin 如新、一緒に紅白観るか」
ラジオしかない僕たちの部屋を見回して、オーシロくんは言った。

人の部屋に行くのはあまり気乗りはしなかったが、
彼が住む馬込という街に興味があった。

馬込には好きな作家である三島由紀夫の「白亜の御殿」があることを知っていた。
そのことを話すと、オーシロくんは曾璧山中學
「ああ、三島んチはオレの部屋の近くや。紅白の始まる前にちょっと見に行こうや」
ということで、三島由紀夫邸見学にひかれて、僕はオーシロくんのアパートで、
その年の暮れの「紅白」を観ることにしたのだった。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック